History




45カ国、171都市。

5年の世界放浪の末たどり着いた、アフリカに魅せられて。

 

2014年1月4日、真新しいバックパックとサブバッグをぎこちなく携えた私はあの日、期待と興奮と不安の入り混じった面持ちで、成田空港に立っていた。その後5年近くも日本に帰国することなく世界を旅し続けるなど知る由もなく。
 
気づけば45の国と地域、171の都市を訪れていた。毎日は驚きと感動の連続で、見知らぬ街を訪れるほど、行きたい場所や知りたいことは増えていくばかり。
新しい国を旅する度に繰り返したはじめましてとさよならは数え切れず、どこに行ってもひとりぼっちのよそ者として生きることが、いつのまにか日常になっていた。文字通り放浪癖を患った私は、旅するように生きることがうまくなりその代わりそれまでの28年間私の日常だった日本へ帰る理由をうまく探せずにいた。
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そうしていつものように、幾つかめの新しい国として、東アフリカのルワンダを訪れたのは2017年の10月のこと。初めてのアフリカ圏は何もかもが想像をはるかに超えていて、すっかり旅慣れしたはずの私が、再びの旅熱に取り憑かれ興奮を隠せずにいた。
ある日、ギャラリーで出会った青年の絵に切り貼られていた、布の端切れにふと目が留まる。ここに行くといい、と渡されたメモを手に、街の外れにある市場を訪れた。そこで目にしたのは、無数のカラフルなアフリカの布、キテンゲ。広大な市場の一角を、所狭しと並べられた鮮やかな布たちに、私は一瞬で心を奪われた。大胆な色使い、見たことも思いついたこともないパターンの配置。来る日も来る日も訪れては、その斬新なデザインをただただ眺めて回った。
「何かしたいかもしれない。」そんな漠然としたほんの些細な衝動は、けれど消えることなく、ずっと心の片隅に留まり、繰り返し脳裏によぎり続けた。
 
その後訪れたウガンダ、ケニア、タンザニアで、私はより一層アフリカという未知の土地に魅了されていく。屈託なく等身大の人々、都市の洗練さと荒削りのエネルギーが共存する二面性、青空の下太陽に照らされながら音楽とともにある暮らし。人々、文化、風土、暮らし、そのどれを取っても私には全てが真新しく眩しくて、何よりも、自分が自分らしくいられる不思議な居心地の良さがあった。
「私はきっと、この場所に帰ってくる。」
約5年、新しい土地から土地へと彷徨い続けた私が、今までに感じたことのない、もう新しい場所は探さなくていい、という感覚。それは、ひたすらにあてもなく放浪し続けたこの旅に、 初めて告げられた、終わりの合図。ずっと帰りたくて帰れなかった、日本へ帰ろう。長すぎた旅路の末、ようやく私は、終止符を打つことにした。
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一年後、2018年の10月。すっかりくたびれたバックパックとサブバック、それから一台の真新しいミシンと共に、私はナイロビ空港に立っていた。新しい旅を、第二章を、始めるために。

 

2019.4.20